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月兎社のモト
by calico3
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種村季弘「箱抜けからくり綺譚」。
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すごいなあ。ほんとうにすごい。なんどもなんども読んだ御本だのに、やっぱりアタマがぐらぐらする。巻頭から「動物カーニヴァル今昔談―鳥獣戯画」「女装した上皇―後水尾上皇と修学院離宮」「石川五右衛門秘密の抜け穴」「覗きからくりのトポス―江戸浮絵から谷崎潤一郎の暗箱まで」「博物誌としての花鳥画―伊藤若冲の針穴写真機」「あるサロン博物誌家―木村蒹葭堂」。

あるテーマの本400頁を読み終わって、種村先生の同テーマの短文一文を読み出すとやがてある4、5行にいきついて「あっ」ってくらっちゃうんである。200年のスパンでパースペクティブが突き抜ける。アタマがうわっと浮いてエクタシスしてしまう。この「箱抜けからくり綺譚」の伊藤若冲論なんてそういう5行の集積だけでできている。いきっぱなし。おそろしい。

後半のエッセイはどれも楽しい。からくり。コレクション。自分でも不思議なくらいふだんキョーミない「食がらみのエッセイ」も種村先生のだけは好きだ。「豆腐マニアの話」「メフィストフェレスになったギョーザ」。そしていつもあとを曳くのは鏡花に関するエッセイで、ちくま文庫「泉鏡花集成」の解題の単行本化まちどおしかった。(自分でコピーしてつくればいいんだよね。そうしよう)。この本のなかの「摩耶夫人三相―鏡花・迷宮・金沢」「三階から上―鏡花の化け物」もこころにのこる。[amazon]

自分が担当した本が出版されたとき、いつも種村先生が書評してくださったら最高ってどこかで思ってた。書評していただけるとものすごくうれしかった。自分が理解しきれてなかった本の位置づけがスコーンとなされていて「うっ」と恥じ入った。
種村先生の世界はパースペクティブが深い。人間が生きてる。生きてる人間の生きてる情動が非合理だけど論理をもって動いて繋がってる。でもこの大人の男の根幹には虚無の焼け跡にたつ東京池袋少年がいて、感傷も自己愛も「よせやい」なんである。種村先生がなくなっていよいよ昭和は終わったと思った。江戸・明治・大正とかろうじて繋がった昭和がホントウに終わって根拠のない空虚な言葉が溢れてく。「壺中天奇聞」あとがきの「容器と中味の緊張関係が壊れれば、一切は元の木阿弥に戻る」がやってこようとしてるのを感じる。

種村先生の公認サイト「種村季弘のウェブ・ラビリントス」さん[LINK]。これからもどうかがんばってください。
by calico3 | 2004-09-04 00:32 | 本・映画・展覧会
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